熊野古道「小辺路」(後編)

前回私(井戸田)が書いたブログ()の続きとして、2021年4月上旬に三重県と奈良県を跨ぐ熊野古道「小辺路」を歩いてきた時のお話の後編をアップさせて頂きます。

 

2日目の朝

寒さに震えながら一晩を避難小屋で過ごし、1日目の夜が終わり二日目の朝を迎えた。

僕たちは、日の出前の朝4時に行動を開始。

初日の朝は気温の低さに少し不安を抱いたが、朝の肌寒さと日中の暑さと夜の刺すような寒さを経験した事もあり、二日目は気温に関して不安を募ることはなかった。

ただ僕たちの目の前をガスが覆い隠し、その視界の悪さが前日にはないような不安を掻き立てる。道が広く、整備もされている熊野古道小辺路でもこの視界の悪さでは歩き始めて1~2時間はペースを上げる事が出来ない。それでも、僕たちはゆっくりと確実に距離を稼ぐ必要があった。

 

ようやく明るくなり視界も十分に確保された7時頃、民宿などのある集落を通過。そのタイミングで外国の方が僕らを追い抜いていった。かなりのペースで先を歩いて行き、あっと言う間にその後ろ姿は見えなくなる。海外ではロングトレイルを歩くと言う文化が一般的に浸透している為、かなり歩く事に慣れている様に見受けられた。今回の旅ではトレイル上で出会った方はかなり少なく、颯爽と僕らの先を行く姿はとても印象深いものとして心に残る。

 

半日に一度ほど水場を経由することができるので、それを計算に入れて補給を行えば、基本的水分は2Lほどを持ち歩けば問題はないと判断。

2日目の気温は初日ほど上がらず、ウールの半袖Tシャツの上から化繊の長袖シャツをレイヤリングし暑さも寒さも感じずに行動し続けることができた。

4月の熊野古道は肌寒さを我慢出来れば、その分、沢山の水を持ち無駄に体力を使うことも無ければ、日に照らされて暑さによる喉の乾きに悩まされる事が少ないというメリットを得る事が出来る。

なだらかな峠を登り、その先にあった休憩スペースで僕らは早めの昼食をとった。

食事を終え、さあ出発と言ったところで、北海道から熊野古道を歩く為、三重に訪れているというご夫婦がやってきた。話を聞くと、朝、僕らを追い抜いていった外国の方と同じ宿に泊まっていたとのこと。その外国の方は、宿に泊り早朝からスタートし、お昼頃に次の宿泊地に到着する事で、宿での時間をゆっくりと過ごすというスタイルだという事を知る。

この日の残りの行程は下りのみ。かなり気分は楽に感じ、テント泊装備を背負っていたものの、下りでは小走りになってしまうほどきれいに整備された道。長い距離をひたすらに歩く事に集中が出来るのも、普段の登山と違い新鮮に感じる。

距離が長くなれば休憩したい気持ちも湧き上がってくる。ただそれよりも、トレイルを歩き続ける気持ち良さがずっと続く為、歩き続けることが苦に感じない。ただ、次に麓へ降りてからは、アスファルトで舗装された車道を7キロ程歩く区間となってしまう。

バスに間に合うのか

僕達は、その7キロのロード区間を避けるために、事前に調べておいた一日数本のバスに乗る事を考えた。もし早い時間帯のバスに乗る事が出来れば、かなりの余裕をもって二日目の宿泊地点でもある十津川村に着く事ができる。そうする事で、先ほどの外国の方のスタイルを真似て、宿泊地での時間をゆっくり過ごす事が出来るのではと希望を抱く。

バスの終着地でもある十津川村は、今回の旅のなかで最大の街となる。宿で入浴する事も出来、コンビニのような売店もあり、歩く為のモチベーションが湧き上がってくる。僕は、少しでも街を楽しむ時間を確保する為にと、午前中のバスに乗る為に歩くペースを上げて行きたかった。

ただ、この重要な局面で問題が発生。同行している友人が腹痛を訴え始めた。

その為、歩くペースを上げることが出来ない。これでは、早い時間のバスに間に合わないが、ここで無理をして友人の体調を悪化させてしまっても残りの旅に差し支えるため、僕たちはゆっくりと確実に距離を稼ぐ事にし、お昼過ぎの便に乗ることにした。

僕たちは無事にバス停に到着し、午後の便に乗る事ができたが友人の体調は回復せず、さらに、天気予報になかった雨も降り始める始末。このあと十津川村に到着し、ここでぼくたちは決断をすることに。

 

安全重視かつポジティブな決断

小辺路一番の補給地点でもある十津川村に着いたが、雨は収まるどころか強く降り始め、友人の腹痛も治まらない。

僕たちは、小辺路ルートのゴールでもある本宮まで歩く事を断念。ここ十津川村を今回の旅のゴールと決断し、本宮の先にある新宮駅までのバスのチケットを買った。

バス出発までのしばらく空いた時間に、念願の十津川温泉・ターミナル駅にある足湯(なんと無料で開放されていました)に浸かることが出来た。

新宮駅に向かうバス車内では、バスに吹き付ける雨音を聞きながら、この日の夜にテント泊する決断をしなかったことに安堵したことを覚えている。

安全重視かつポジティブな決断として、小辺路の旅のゴールでもある本宮まで歩かず、新宮駅までバスに乗る事を決めたが、そのバスに乗る直前まで僕は小辺路の旅をここで終わりにして良いのかと考えた。ただ、十津川村までは、バスなどでアクセスすることが比較的容易に出来る。だから、今回の旅とは別に、新たに十津川村から先の旅を別の機会にに再チャレンジするのも良いのかもしれないとも考えた。次回以降は同じルートを一人で挑戦したり、今回の経験から旅のイメージが掴めた事で、ロングトレイルが初めての歩くメンバーを誘う事もできる自信にも繋がった。

 

 

 


行程を終えて

二泊三日の旅の予定を、一日繰り上げて一泊二日となった今回の小辺路の旅。歩いた距離にして合計で約50kmと小辺路ルートの2/3を歩くことが出来た。全ての行程を歩くことは断念したが、同じ三重県内でも南部と北部で少し違う植生、気候の違いを楽しめた。何より自分の中で一番大きく実感したこととして、ロングトレイルにチャレンジしてみることで山を長距離歩くことへのハードルを少し下げてくれたように思う。

僕は今回の旅で、不測の事態が起きても確実にリカバリー出来る手段を複数用意しておいたり、中間地点でも利用可能な公共交通機関があればその発着時刻を確認しておく等の準備を行った。それでも、経験する事で知る改善点や、やり残した事も見つかり気付きの多い山旅になった。

バスを降りた後は新宮でホテルに宿泊。次の日の朝に電車で帰路につく。ちなみに帰りの車内で腕に痒みを感じてふと目を落とすとそこに付いていたものに驚いた。(虫が苦手な方はご注意)ずっと付いていても意外と気づかないので厄介。皆様もお気をつけください。

初めてのロングトレイル、初めての投稿で拙い文章ではありましたが今後もお付き合い頂ければ幸いです

投稿者:井戸田

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