夏山の準備を始めよう ベースレイヤー編

6月ってこんなに寒暖差激しかったかな…と思いながらここ数日を過ごしていました。特に昨日、一昨日は夜になると肌寒くて、少し厚めの布団を被って寝ると朝には気温が上り、暑くて目が覚めてしまいます。日中はエアコンの効いた店内で働いているので、気温の変化に年々弱くなってしまっている気が…。

街中では空調機器のスイッチ一つで快適な気温で生活出来ますが、山ではそうはいきません。適切なレイヤリングで調整する事は必須となります。体感温度によって体力の消耗度は大きく変わるので、自身にあったレイヤリングをする事が非常に重要。店頭で多くのお客様に接客させて頂き、ここ最近感じるのが自分に合ったベースレイヤーを選べていない方が意外と多いという事。

「合うベースレイヤー」というのは、サイズ感やデザインの似合う、似合わないではなく体質や使用環境、好みにあわせた正しい選択が出来ているかどうかという事になります。

 

素材の話し

ベースレイヤーは大きく分けると2つの素材に大別されます。ポリエステル等の化学繊維を用いた物と羊毛であるメリノウールを用いた物。そして、ここ数年はメリノウールが非常に人気。その理由は汗冷えのしにくさや、抗菌防臭機能等、山では嬉しいメリットが沢山あるから。では、どんな時でもメリノウールがベストであるかと言うと、そうではありません。状況によっては化学繊維が勝るシチュエーションもあります。そこは、双方のメリット・デメリットを知ったうえで考えましょう。

 

メリノウールのメリット・デメリット


【写真はICEBREAKER  HPより掲載】

〇メリット
・天然の抗菌消臭機能
・調湿機能
・汗のベタ付きが少ない
・汗冷えを感じにくい

〇デメリット
・短繊維の為、化繊より摩擦に弱い
・大量発汗時には乾きが追い付かず汗がオーバーフローしてしまう
・虫に喰われやすい

 

化学繊維のメリット・デメリット


【写真は日本化学繊維協会より掲載】

〇メリット
・優れた速乾機能
・素材によっては疎水性を発揮
・長繊維である為、メリノウールより擦れに強い

〇デメリット
・汗が乾いた後のベタつき
・素材によっては雑菌が繁殖しやすい

以上の点をふまえて、それぞれの素材が得意、不得意とするシチュエーションを想定してみましょう。

 

メリノウールの場合

メリノウールは連続した着用をしても不快感を感じにくいので、夏場の高山域での小屋泊、テント泊等に向いています。また、汗冷えを感じにくい特徴もあるので気温が低い時期の低山でも活躍してくれます。逆に向いていないのは、滝汗をかいてしまうようなシチュエーション。例えば、真夏の低山でのトレラン等、大量の汗をかき続けると、乾きが追い付かずベタベタなベースレイヤーを着続ける不快感が勝ってしまいます。この点は「汗冷えを感じにくい」という部分とのトレードオフになると思って下さい。本来、人の身体は体温を下げる為に汗をかきます。肌に出てきた汗が蒸発する際、気化熱として体温を奪っていきます。化学繊維は速乾力が高すぎる為、風の影響で蒸発が促進されると気化熱が多く発生し、結果的に汗冷えを感じるのです。その点、ウール素材は化学繊維程、速乾力がないので気化熱の影響を受けにくいというわけです。

故に、汗を大量にかき続けるよう時には、吸い上げた汗の乾きが追い付かずベタベタになってしまうのでメリノウールには向いていないシチュエーションと言えるのです。

 

化学繊維の場合

先述の通り、速乾力に優れた化学繊維は汗を多くかく時にむいています。真夏の低山ハイクや、高山域でのファストパッキングやスピードハイク等、そういったシーンでは化学繊維が優位になります。ただ、ドライレイヤーを上手く活用する事で汗冷えを防ぐ事も出来ます。ただ、注意頂きたいのがドライレイヤーを使用するシチュエーションです。

夏の高山域であれば、風の影響を受けやすいのでドライレイヤーが活躍してくれますが、真夏の低山となると少し話が変わります。低山と言えど、風が吹けば汗冷えを感じてしまうのでドライレイヤーを着たいところ、しかしドライレイヤーを挟むという事は、服を一枚重ね着しているという事になります。そうなると単純に暑すぎてしまう時があるのです。汗冷えを防ぐ為に着ているドライレイヤーによって体感温度が上がり、発汗が促されてしまっては本末転倒。故にドライレイヤーを使用する際は、その目的と使用環境をちゃんと考えなければいけません。

 

総じて、メリノウールと化学繊維は上手く使い分ける事が重要になります。メリノウールは汗をかく時は着てはいけないのかと言うとそうではありません。私自身、真夏の日常着にメリノウールのTシャツを愛用しています。選ぶ際に意識して頂きたいのは「汗をかく量」です。

もの凄く単純に言い分けるなら、この様な感じです。

・大量の汗をかく→化学繊維

・汗をあまりかかない→メリノウール

この発汗の基準も個人差があるので難しいところですが、あくまでも大まかな目安として考えて下さい。

また、泊りがけの山行では、化繊とウールの両方を使い分ける事も重要です。行動中は化繊のベースレイヤーを着ておき、就寝時にはウールのベースレイヤーに着替える。そして寝ている間に化繊のベースレイヤーを干しておく….と言った具合に上手に両者を活躍させるのも一つの手と言えます。

そして、自分は汗をかきやすい体質だけど、メリノウールは着ない方がよいのかな…と思ってしまった方。そんな方には、両者の良いトコロを高いレベルでかけあわせたベースレイヤーがおススメです。

 

それぞれのおススメ

Teton BrosのAXIOシリーズはウール繊維と化学繊維を特殊な製法で混ぜ合わせる事で肌に触れるのはメリノウールでありながら、速乾性も併せ持った非常に優秀なベースレイヤーとなっています。

 

他にもSTATICのALL ELEVATION S/S SHIRTS や同シリーズのSLEEVELESSもウールと化学繊維の混紡生地となっています。

 

ALL ELEVATIONの生地は凹凸のあるボーダーメッシュ構造により高い通気性も備えているので、暑がりさんにも着用しやすいウールウェアです。

 

個人的にはACLIMAのLIGHTWOOL SINGLETも夏に着るウールウェアとしておススメ。袖もいらないような気温域では解放感が欲しくなります。首回りがユッタリめなので開襟シャツとも合わせやすいんです。

 

山と道のショートスリーブシャツとの相性もバッチリ。ウール特有のしっとり感が開襟の雰囲気と相まって大人なハイクスタイルに仕上がります。

 

 

ウール推しかと思われるかもしれませんが、化繊のタイプもプッシュさせて頂きます。山でも着たいし、普段も着たい。そんな方にはpatgoniaのCapilene Cool Dailyシリーズがおススメ。

 

無地のタイプもありますが、バックプリントが入っていたり胸元にロゴが入っていたりとカジュアルに着れるのがポイント。登山以外のスポーツ全般でも使いやすくて、独特のシルキータッチな生地感も大好きなアイテムです。

 

これからの時期、稜線歩きや水辺の遊び等で日焼けを気にされるかたにはフード付きが向いていますよ。私自身が愛用しているアイテムでもあるのですが、冬場もランニングウェアとして使っているので年間を通してかなり出番が多い一軍メンバーに入っています。

まだまだご紹介したいベースレイヤーが山ほどあるのですが、長くなり過ぎてしまうので本日はこの辺りで閉めさせて頂きます。

パックやハードシェル、テント等々…比較的高価な道具を選ぶ際には慎重になりがちですが、肌に触れるベースレイヤーも実は慎重に選ぶべきギアの一つです。自身の身体に触れている分、自分の体質や使い方にマッチしていないと大きく影響を及ぼす道具と言えます。とにかく乾きが速い服が良いと聞いたから…、メリノウールを買えば間違い無いって聞いたから…そういった基準でベースレイヤーを選ばれた方は今一度、俯瞰して見つめ直してみてください。今後の山ライフがより快適なものになるかもしれません。

本日のブログは松下がお届けしました。長文に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

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