奥信濃100。足りなかった20分 。~ Beyond the Finish Line そして、次へ。~

足りなかった20分

奥信濃100を19時間50分で完走した。
目標の19時間30分には20分届かなかった。

結果とレース展開を振り返れば、少し悔しさの残るレースになった。
それでも今は納得している自分がいる。

ゴール直後は、この20分は、どの局面で頑張れば縮められたのだろうかと考えたが、レースが終われば全てがタラレバになる。

自分を納得させる1つとしてあらためて気がついたのは、レースで縮められた20分ではなく、スタートラインに立つまでの準備期間で縮める20分だったと。

そう、レースはスタートラインに立った瞬間から始まったものではなかったからだ。

2025年12月に奥信濃100にエントリー。
そこから、数ヶ月はスノーボードにあけくれ、全く練習をしなかった。
理由の1つに、同年の9月に出場した信越110kが、かなり良い状態でゴール出来、その成功体験がサボり癖を加速。

「信越110kのあのゴールの感じなら、次もイケルでしょ。」
「3ヶ月のトレーニングで大丈夫でしょ。」

ただ、そんな余裕は、スノーボードで足首を捻挫した事によって、焦りに変わっていった。

 


焦りの中で変えたこと

 

3月下旬の頃。
走り出せば足首が痛い。
自分がイメージするトレーニングが出来ない。
回復の兆しが見えれば、次は、足の甲が痛い。今度は親指。そしてアキレス腱。

痛みの場所は変わるのに、不安だけはずっと同じ場所に居座っていた。
本当に奥信濃100を走れるのだろうか。

そんなことばかり考えていた。

自分が撒いた種だ。

だからこそ、この状況をポジティブに考えるようにトレーニングを変える事にした。勿論、劇的に走力が上がる事などは期待していない。ただ、不安を解消させる為にはマインドセットを変える必要があった。

それは、レースまで約2か月とちょっとの時だった。

今回、レースに向けたトレーニングで一番大きく変えたこと、それは、心拍数を見るようすることだ。

勿論、これまでも心拍をみていたが、それまでの自分は、トレーニングは頑張ることであり、頑張った証の1つとして心拍を見ていた。

この心拍で何分・何キロ走れたかの証の為に。

練習とは、
苦しい。
追い込む。
疲れる。
だから強くなる。

そんなイメージだった。

でも今回は違った。

実は、奥信濃100にエントリーした12月に東京でプロ・ウルトラ・トレイルランナーの宮﨑喜美乃さん(→■)にお逢いした。
その時に、超長距離を走る為のトレーニングについて質問させていただいた。

答えとしては、
「ゾーン2で走りましょう。」
「ミトコンドリアを増やし、毛細血管を育てましょう。」

その当時の僕には、ミトコンドリアと言われても思い浮かべる事が出来るのはゾウリムシ。
毛細血管と言われても、早く走るにはハァハァ・ゼェゼェ言いながら身体を動かす。その為には、裏路地的な小道のような毛細血管よりも、強い心臓と沢山の血液を運ぶ大通りが必要なのでは?と。
ましてや、ゾーン2っていえばジョグで強くなれるのかな?と疑問ばかり。

そう、昭和のスポ魂の持ち主からすれば、如何に閾値走での練習時間を増やすかが強くなる最短ルートだとおもっていた。

ただ、捻挫から始まった身体の不調が原因で、これまでのトレーニングが出来ず、喜美乃さんに言われたことを思い出し、そして、彼女が書くnote(→■)を読み、

 

ポッドキャストも聞き直し

分からないことはChatGPTに聞きまくって勉強をした。

ただ、頭の上の方で理解出来ても腑に落ちてこない。

でも、僕はZ2を中心としたトレーニングに切り替えるしかなかった。

これまでの、自分のトレーニングデータやレース結果、そして、奥信濃100を目標にしている事を、ChatGPTに流し込み、トレーニングメニューを提案してもらったら、AIもZ2のトレーニングを進めてきた。

もう、やるしかなかった。

ただ、AIコーチの提案通りにZ1で4~5キロアップし、残りの5~7キロをZ2で走る。

心拍をみる。
呼吸を乱さない。
練習は、余裕を残す。

最初は物足りなかった。
本当にこれで強くなれるのか。

むしろ弱くなっているのではないか。
そんな不安もあった。

それでも続けてみた。

すると少しずつ分かってきた。

アップが終わる頃から身体が軽く動き出す感覚。
Z2の中でも、強弱をつけるコツと、スピードを出せる走りかた。

数値を見ながら体調やスピードやフォームを意識する。
そして、余裕が残るから練習が苦じゃない。
むしろ楽しい。

速く走ることだけが成長じゃない。
超長距離を走る為には、長く動き続けることもまた、ひとつの強さなんだと。

確かに、今までとは違った感覚で成長している感じはするが、果たして、残り数ヶ月で怪我の不安を抱えながら走れる身体になるのか、全てはレースが終わる時までその結果は分からない。

ただ、今はこの練習を信じてヤルしかなかった。


(練習と同じぐらいケアもしっかり

 


 

走る理由

 

レース前日。

準備をしながら考えていた。
足首は大丈夫だろうか。
親指は持つだろうか。
補給は上手くいくのだろうか。


レース前後でお世話になったゲストハウス

今回は不安も多く自信なんて最後まで持てなかった。
でも、どこかで期待している自分もいる。
前回の信越110kのように、残り10キロ爆走出来るんじゃないかと。

楽しみ
不安
自分を信じるの気持ちと過信しない気持ちの葛藤

頭も心もグチャグチャで・・・

それでも走る理由をレース前夜に明確にした。

「ゴールに向けて走る中で変化していく自分を楽しもう。」と。

 


 

いけると思った

 

レースは、大きく分けると3部構成になっている。

前半の約27キロまで、下痢に悩まされ思うように進まず、タイムテーブルより約20分遅れ。
下痢止めを飲んでからは、レースは思った以上に順調に進める事ができ、中盤では遅れていた時間も回収。その後、タイムテーブルに対して20分ほどの貯金が出来るぐらいまで回復し後半へ。

補給は上手くいった。
足も攣らなかった。
胃も動いていた。
心肺も残っていた。
呼吸が苦しくて止まることは一度もなかった。

だから途中までは思っていた。
今日はいけるかもしれない。
目標を大きくクリアし、また最後に信越のように爆走出来る快感を味わえるかもしれない。

A6(糠千1)エイドのからの残り30キロから頑張る?
A7(ケヤキの森)エイドからの残り16キロで爆走する?

 


 

足らなかったモノ

 

でも100kmはそんなに簡単じゃなかった。

A5(カヤの平2)エイドからA6に向かう長い林道の下り。

硬い地面。
少しずつ削られていく脚。
気付けば前に進むための代償が大きくなっていた。
体力は残っている。
気持ちも残っている。
そして、最後に爆走するだけの脚を残した予備タンクもあるはず。

ただ、実はあると思っていたその予備タンクは既に空っぽで、「まだ残っている」と思っていたのは、自分だけだった。

これまで何となく、
「心肺が強くなれば長い距離も走れる」と思っていた。
でも今回のレースで改めて分かった。

心肺は残っていた。
補給も上手くいった。
気持ちも残っていた。
残っていなかった、いや、足らなかったのは脚だった。

それでも最後は前へ進んだ。
ゆっくり走り、進むスピードが遅くなっても。
ゴールだけは近付いてくる。

 

そして夜。

A6(糠千1)エイドから、”攻めの走り”をイメージしていたが、消化試合を熟すように脚を進める事しか出来なかった。

 

 

不調は続く。

A7(ケヤキの森)エイドを出た次の瞬間、自分の体温が上がってこない。


むしろ、寒さで一気に身体が固まりだした。
レインウェアーを着るが追いつかない。
エイドに戻り体調が戻るまで休もうかとも考えた。
ただ、戻っても復活するとは限らない。
それであれば、脚の痛みと体温以外は問題ないから動き続ければ良いと考え、とにかく、脚を動かし続けた。
ここからが本当に長く感じた。
進む時間と進まない距離と、減らない残りの上昇数値。

最後のA8(糠千)エイドに到着した頃には、安堵を覚えたが、同時に目標タイムには間に合わない事にも腹を括った。

歩く自分の横を走り抜ける他の選手たち。

イメージでは、僕がその役をするつもりだった。

信越110kで経験した、あの最後の高揚感をもう一度味わうつもりだった。

でも今回はそれが出来なかった。
悔しかった。

ただ、ここを走れる選手に本当に尊敬でしかない。
そして、格好よかった。

ゴールに向かう最後の登り。

暗闇の向こうに見える灯り。

ゴール会場の光と声。

あの景色はきっと忘れないと思う。

奥信濃100を走り、そして、ここまで動き続けた人だけが見ることのできる景色だ。

 


あの灯りの先へ

目標には届かなかった。

でも、諦めたわけでもなかった。

むしろ今回のレースで、自分に足りないものが少し見えた気がしている。

下り耐性。

超距離を支える脚。

そして、もっと長い時間を動き続けるための準備。


(写真:大会オフィシャルフォトギャラリーより|Photo by   SHO FUJIMAKI & Takanori Ota)

ゴールゲートを潜った瞬間よりも、あの最後の登りの景色の方が印象に残っている。

なぜだろう。

たぶん、自分の中では終わった感覚が無かったからだと思う。

奥信濃100は終わった。

でも、まだ終わっていない。

あの日の夜に見た灯りの先には、きっと次の景色がある。

だからまた走ろうと思う。

少しずつ。

また積み上げながら。

そして次へ。

信越100マイル。

 

 


 

あとがき。

このBLOGを読んで、少しでもトレイルランニングをしてみたいと思う人が増えたら嬉しい。

長い距離じゃなくていい。
早くなくてもいい。
もしかしたら、トレイルランニングじゃなくても良いのかも。

決めた目標やゴールに向かって進むこと。
少しずつ積み重ねていく感覚。
変化は突然ではなく、グラデーションの中にあるということ。

山を登ることも。
道を走ることも。
日々の生活も。

良い時も
悪い時も
その変化を楽しんで欲しい。

投稿者:飯田

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