満身創痍の峠走

「1時間で必ず折り返す。」

そうやって約束をしてスタートした夜の峠走。

この峠走は、楽しくワイワイと峠のピークを目指して走るのではなく、1時間でイケる所まで走って折り返す事だけをルールにスタートした。だから、その追い込み方は個人の気持ちに委ねられたわけだが、結果的に皆がお互いを刺激し合って良い練習になった。

とは言え、正直言えば、そうそうに弱音を吐き歩いてしまおうとも思ったし、周りから離れ一人になった時は心が折れそうにもなった。

トップを走る二人は、この峠で一番長いと思われるトンネルのストレートで確認が出来ない程距離を離され、僕はただただ、前を走る仲間の赤色灯との距離が遠ざからないように喰らいつくのが必死な状態が続いた。

うねうねと峠のカーブが続き、そのカーブに隠れるように前のランナーの赤色灯が消えては、その度に、次に自分がそのカーブを曲がり切った時に、赤色灯が見えなくなっていたらどうしようと不安になり、これ以上離されてはダメだと足を動かす。

今、この気持ちが折れてしまえば、再度奮い立たせる事が出来ないことを恐れ、それと同じように、後ろで頑張るランナーの足音に追いつかれたくないと必死の思いで峠を駆け上がり続けた。

約束の1時間まで残り数分。

既に、頭の中では「意識」と「心肺」と「疲労度」を切り離そうと必死な状態だった。この1分が終われば、足を止めて水を飲み、そして、峠の下りは重力に任せて走れば良いだけ。「そうだ、下りはダラダラ走っても進めるから楽だしね。」

そう思いながら、前のランナーの赤色灯が止まる事を願いながら走るが一向に止まらない。

約束の時間はとっくに過ぎている。

そりゃそうだ、峠のピークまで残り僅かだしここまで来たならピーク踏んで折り返すよね。

前を走る仲間に言葉で確認をした訳ではないけれど、その伝わって来る気持に引き上げられるように僕もピークを目指した。

そうこうしているうちに、物凄い勢いで峠を駆け下りてくる2つのライトが目に飛び込んできた。

僕は、そのライトに「飯田さん折り返しますよ」と声を掛けてもらえるのではと、甘い言葉を期待し受け止める準備として一瞬足を止めたが、その2つのライトは止まることなく物凄いスピードで走り抜け、すれ違いざまにに「ナイス・ラン!」と言って疾走していった。

「やっちまった・・・・」と、自分の甘さを痛感した。

ここまで来て峠のピークを踏まずして下っていいのか・・・。下りをジョグペースで走って良いのか・・・。

よし!必ずピークまで走ろう。そして、峠の下りも走り抜けよう。

峠ピークにあるトンネルにタッチをし、腰に差した水を二口ほど飲み、気を引き締めては、重量に身を委ねるというよりも、しっかりその重力を乗りこなす気持ちで一気に駆け下りた。

ピークから少し下った所で後続の仲間が走る姿を見た。そして、同夜に懸命に峠のピークを目指して走っていた事に更に勇気を貰った!

そこから、また必死に走った。時折、見える赤色灯が前を走るランナーのモノなのか、はたまた、道のカーブを表すモノなのか分からないぐらい必死。

その甲斐もあってか、気がつけば前のランナーとの距離も縮まり、このペースで行けば追い抜けるかと思い、絞りきった気持ちを再度絞り上げスピードを上げた次の瞬間、前を走る仲間が僕の存在に気が付き、一瞬振り向いて僕のヘッドライトを確認してスピードを上げた。

こんなシーンはレース等は時折あると聞くが、まさか、実体験出来るとは。しかも、練習でこんな瞬間がくるなんて。正直、僕は変な興奮を覚えた。

「抜きたい。」

ただ、追いつきそうになる瞬間にさっきみたく離されてしまうと確実に僕のメンタルは崩壊してしまう。そして、そんな感じで一度崩壊したメンタルに自分は勝てないかも・・・。色々な事を思い葛藤しながら、また必死に追いかける。途中、本気でヘッドライトを消して走ろうかとも思ったほどだった。

結果的に並ぶこともなければ、追い抜くことを出来なかったが、それでも、既に自分の心臓と足じゃ無くなったようなモノ達に対して、さらにムチを打って走り、まさか、自分が下りまでこんなに頑張って走るような峠走になるとは思ってもいなかった。

登りであんなに苦しかった場所も一瞬で駆け下りる一方で、次の目印となる場所までは遠く感じる。このチグハグな感覚を生み出す僕の脳は完全にやられていた。

次第に、峠の斜度も緩くなり下りの重力が薄まるにつれて自分のスピードの無さと足の動かなさに驚いた。むしろ、最後の平地区間は登っているように感じるほどだった。

ランニングで、学生時代の部活以外でここまでバーンアウトするというか、満身創痍になった初めてではないだろうか。

まさか、夜の20時からこんなに走る事になるとは思っていなかった。

メンタルが弱い僕が、心拍ゾーン5でこんなに動き続ける事が出来るのも周りで一緒に走ってくれる人のお陰だと思った。

仲間でプッシュしながら走るのって辛いけど楽しい。正直、また、この峠走を行うのかと思うと恐怖でしかないが、絶対にやった方が良いよね・・・。

あまりにも、必死に走っていたから写真1枚もないけど、どう表現して良いかわからない練習(→■)が楽しく、しばらく続きそうなのは間違いない事だ。

 

近日中に、商品紹介のブログを書きますね。投稿者:飯田

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