100マイルという、未確定の境界線。【後編】163kmの先にあったもの。

BLOGFIELD REPORT

信越五岳100マイル、163kmの全体像

2022年のペーサー、2023年の110km完走、2024年の初挑戦とDNF、2025年の110km再挑戦。そして2026年、僕は2回目の100マイルのスタートラインに立った。

大会概要

  • 距離:163km
  • 累積標高:約7,100m
  • 制限時間:33時間(スタート 9月21日 18時30分、ゴール制限 9月23日 3時30分)
  • 目標タイム:32時間30分(9月23日 3時00分ゴール)
  • 選手受付:9月21日 9時30分〜14時00分
  • ドロップBAG・荷物預かり:9月21日 16時00分〜18時00分

 

スタート前日と当日、そしてゲートの前へ

9月20日(スタート前日)

    • 昼過ぎに出発し、夕方に飯山エリアへ到着
    • 夕食とお風呂を済ませて、道の駅「花の駅 千曲川」で車中泊
 
 
 
 
 
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9月21日(スタート当日)

  • 起床して、道の駅で朝食
  • 野沢温泉で朝風呂
  • お昼前に選手受付を完了
  • 飯山駅近くで昼食
  • 指定の駐車場で仮眠し、16:30頃に起床
  • 17:00頃、ドロップBAGと荷物を預けて、スタート地点へ移動

 

エイドと関門

関門は、このレースの核心だった。実際に通過した時刻も、ここにまとめておく。

エイド

距離

補給・設備

関門

IN時刻

OUT時刻

荒瀬原

14km

トイレ・ウォーターエイド

なし

—

—

バンフ

19km

FULL

なし

—

—

赤池

33km

FULL

なし

—

—

アパリゾート上越妙高

53km

FULL・ドロップBAG

9/22 5:00

9/22 4:17

4:40:05

国立妙高青少年自然の家

69km

FULL

9/22 7:30

9/22 6:57

7:06:19

池の平スポーツ広場

87km

FULL

なし

9/22 10:46

—

黒姫

99km

FULL・ドロップBAG

※100マイルペーサー合流

9/22 14:00

9/22 12:54

13:26:52

笹ヶ峰グリーンハウス

111km

FULL
※110kmペーサー合流

9/22 17:00

9/22 16:34

16:41:54

西登山道入口

121km

ウォーターエイド

なし

—

—

大橋林道

127km

FULL

なし

9/22 19:40

—

戸隠スキー場

140km

FULL

9/22 23:30

9/22 22:07

27:37:07

飯綱林道入口

151km

トイレ・ウォーターエイド

なし

9/23 1:00

—

いいづなリゾートプラザオーロラ

163km

ゴール

9/23 3:30

9/23 02:53:41

—

 

スタートから53km|土砂降りと、1時間の貯金と、最初の勘違い

 

大雨の中、スタート時間が刻一刻と進む。

選手はスタートギリギリまで、スタート会場にあるセンターハウスの中で待機。

その選手達の目は皆力強く、足元をみれば練習を重ねてきた強靭な足が並ぶ。

スタートを盛り上げる音楽と110kmの選手やサポーター等の声援の中、異様な熱気に包まれたセンターハウスからスタートラインに移動をする。独特な雰囲気にとにかく、気持ちが高ぶるの覚えた。

見事なまでの土砂降り。ただ、昨年の110kmを思えば、まだマシだった。

その経験から、いつもは後方に陣取ってスタートするところを、真ん中あたりに位置取りした。選手に踏み耕されたトレイルを、早めにパスする作戦だ。昨年同様に滑りまくるトレイルが続くが、昨年に比べればいい。

COROSの「ペース戦略」を、ぶっつけ本番で

COROSに新たに搭載された「ペース戦略」を、ぶっつけ本番で使いながらレースを進めた。事前にGPXデータを入れ、エイド情報や滞在時間、目標タイムを設定しておくと、次の情報が表示される。

  • コースの現在の区間目標ペース
  • ゴールまでの到着予測時間と残り距離
  • 全体の目標タイムに対して、貯金があるのかないのか
  • 次のエイドまでの残り時間、距離、および標高差

ぶっつけ本番だったので、レース中に見方を理解して、「へぇ〜、スゲェ〜、便利」と思った。

立ち上がりの貯金

レースの立ち上がり、COROSが出す目標タイムに対して、1時間もの貯金があった。

「え!?めちゃくちゃいい感じじゃん!!!」

でも、これは飛ばしすぎなのかもしれない。高まる気持ちを抑えるように、ペースをコントロールした。この頃から、気がつけば雨もあがっていた。

アパで気づいた、初歩的なミス

関門9/22 5:00
IN:時刻 / 4時17分(レースタイム09:47:29)
OUT:時刻 / 4時40分(レースタイム10:10:05)
滞在時間:約23分

気分上々のアゲアゲな状態で、最初の関門「アパ」(アパリゾート上越妙高、53km)に到着。すると、一緒に練習するチームメイトの顔があった。しかも、少し慌てた様子だ。

自分より走力のあるチームメイトと同じ場所にいるということは、やっぱり飛ばしすぎなのかも? でも、貯金だと考えれば……と、アゲアゲ気分のままエイドワークを進めた。チームメイトが慌てているのは、てっきり彼の目標プランから遅れているからだと思っていた。すると――

「飯田さん! 急がないと。ここの関門も、今30分前に入れた状態。このままだと、次の関門ヤバイですよ」

「?!」

「はっ!! しまった……」

僕は、初歩的なミスを犯していることに気がついた。ゴール予想タイムばかりを気にしすぎて、各関門の制限時間をチェックするのを忘れていたのだ。

アパの滞在は約23分。次の関門は、国立妙高青少年自然の家(69km)の9/22 7:30。区間は16kmある。順調に行けば間に合うが、次の関門に対する貯金は約30分ほど。ワントラブルでも起これば、かなり危険な状態だ。

準備と確認不足から勘違いして、余裕気分で走っていた状態から一転、一気に焦りに変わった。

え?! このままいくと、前回リタイアした笹ヶ峰エイド(111km)までも行けないかもしれない。

自分にとって未知でもある111kmから先の世界。完走を目標にしてきたのに、その場所まで辿り着けないのかもしれない。一気に不安が大きくなる。

69〜99km|関門との攻防、上越の壁、そして黒姫

それでも、慌てればこの先に大きく影響することは想像できる。ただ、急がなければ脚切り(関門アウト)になる。

COROSに表示される、次のエイド(青少年自然の家)の予想到着タイムを確認しながら走る。相変わらず関門に対する貯金は30分ほどだが、リズムを崩すことのほうが、より大きなリスクになると判断した。そして、貯金を稼ぐために、次のことに集中した。

  • 歩く時は、早歩きを意識する
  • 薄い上りは、できるだけ走る
  • エイドに入る前に、必ずエイドワークを頭で確認してから入る
  • エイドの滞在時間を、可能な限り短くする

国立妙高青少年自然の家(69km)

関門9/22 7:30
IN:時刻 / 6時57分(レースタイム12:27:54)
OUT:時刻 / 7時06分(レースタイム12:36:19)
滞在時間:約9分

大きなトラブルもなく、なんとか関門に間に合ったが相変わらず貯金は約30分。

単純計算でいえば、このまま進めば、ゴールの制限時間に対しても30分前にゴールできる。ただ、あくまでも、そう!あくまでも、このまま進めば、の話だ。

 

上越の壁

青少年自然の家を後にした僕は、2年前の記憶を辿りながら、この後にやってくる前半のボス「上越の壁」こと、赤倉温泉スキー場のチャンピオンコースに集中した。

コースは、ゲレンデとゲレンデをつなぐロード区間もあり、滑って楽しむはずのゲレンデを、苦しみながら進み続ける。毎度思うが、ゲレンデは、リフトで上って滑り降りてくるのが、本当に楽しい場所だ。

池の平スポーツ広場(87km)|STRIDEエイド

関門ナシ
IN:時刻 / 10時46分(レースタイム16:16:21)
次の黒姫エイド(99km)地点まで約12km
黒姫関門:9/22 14時

ここは、日頃お世話になっているSTRIDERIDEチームが運営するエイド(通称:STRIDEエイド)。地元の方による「かんずりラーメン」もある、とにかく誘惑の多いエイドだ。

上越の壁で削られたメンタルだったが、ここでしっかり声援をもらい、しっかりリカバーできた。かんずりラーメンを食べたかったけれど、ここまでお腹の調子が良くなかったので、刺激物は控えて、エイドで用意された「にゅうめん」をいただいた。

ここにきて、関門に対して少し余裕が出てきた。ただ、ある意味ここからが、100マイルレースの核心になる。

 

黒姫(99km)|最後のドロップBAG

関門9/22 14:00
IN:時刻 / 12時54分(レースタイム 18:24:33)
OUT:時刻 / 13時26分(レースタイム 18:56:52)
滞在時間:約32分

 

黒姫エイドは、100マイルレースでは最後のドロップBAGポイント。関門は9/22 14:00で、その約1時間前にINした。

エイドに入る前から、事前に用意しておいたドロップBAGの中身を頭で思い出し、エイドワークを何度もシミュレーションしていた。

  • 残り約60km分の補給食を詰める
  • ヘッドランプのバッテリーを入れ替える
  • 着替えをどうするか

ザックに余っている補給食のうち、絶対に必要なもの以外はドロップBAGに戻し、あらかじめ用意しておいた補給食を詰め直す。後半の天気を確認して、レインウェアは軽量のタイプに変更し、荷物の重量を少しでも減らした。身体をボディータオルで拭いて、ソックスも交換した。

シューズの交換も考えていたが、予想以上にMOUNT TO COASTのT1の調子が良いので、このまま続投。結局、なんだかんだでエイドワークに30分ほど(滞在は約32分)を費やした。

そして、大きく深呼吸をして、黒姫エイドを飛び出した。

ここからは、100マイルの選手はペーサー(伴走者)をつけることができる。僕はペーサーをつけていないので、ここからも1人で走るわけだが、それでも、コース上にランナーが増えて、にぎわいが気持ちを上げてくれた。

111〜140km|リタイアした笹ヶ峰を越えて、未知の世界へ

笹ヶ峰グリーンハウス(111km)

関門9/22 17:00
IN:時刻 / 16時34分(レースタイム 22:04:02)
OUT:時刻 / 16時41分(レースタイム 22:11:54)
滞在時間:約8分

2年前にチャレンジした100マイルレースで、僕がリタイアしたエイド。そして、僕にとっての鬼門のエイドだ。

110kmのペーサーが加わるポイントでもあり、各選手のサポーターも入れる。エイドのフードでは、カレーやスープの振る舞いもあって、とにかく誘惑が多い。

実際に、知り合いの方からも声援をいただけた。関門は9/22 17時00分。INは16時34分で、関門に対する貯金は約26分しかなかった。僕はここを早めに出ることで、気持ちが切れないようにした。滞在は約8分でエイドをパス。

そして、自分にとって未知の111kmから先の世界へ、足を踏み入れた。

この時点で、スタートから約22時間。目標タイムは32時間30分、ゴールの制限時間は33時間。要するに、残り約10時間の戦いだ。

「まだ10時間も動かないといけないのか」と思う瞬間と、「残りたった10時間なのか」と思う瞬間。二人の自分がいる。状況で変化する自分を楽しみながら、とにかく前に進み続けた。

 

西登山道入口(121km)と、眠気

次のエイドは、西登山道入口(121km地点)のウォーターエイド。とにかく淡々と、牧場の横を走る。100マイルの選手も110kmの選手も、ペーサーと一緒に走る人が多く、その光景がとても素敵で、こっちまで勇気をもらえる。

ただ、この頃から少し眠気が襲ってくる時間があった。カフェイン入りのジェルや、咀嚼できる固形物で乗り切った。

 

大橋林道(127km)|patagoniaエイド

通称、patagoniaエイド。関門はなし。

ここでも、仕事柄、多くの方に声援をいただいた。ただ、次の戸隠までは約13kmあり、そこの関門は23時30分。比較的走れる区間だが、戸隠での滞在時間やその後のスケジュールを考えても、少しでも貯金をつくりたい。おいしい味噌汁でお腹を温めて、手短にpatagoniaエイドをあとにした。

 

戸隠スキー場(140km)

関門9/22 23:30
IN:時刻 / 22時07分(レースタイム 27:37:07)
OUT:時刻 / 22時20分(レースタイム 27:50:35)
滞在時間:約13分

とにかく身体が動いた。ここにきて、関門に対して約1時間の貯金ができた。思った以上に身体が動くおかげで、メンタルもキープできている。もちろん足は痛いけど、これはみんな同じだろうと思うようにした。

ここの蕎麦だけは、しっかり2杯食べて、身体を内側から温めた。あわせて、眠気対策にマッハコーヒーをコップに半分ほどいただき、カフェインの注入もOK。そして何より、いつも冬に一緒に滑ってくれている白馬メンバーがいてくれたおかげで、さらにメンタルが上がった。

photo by @doryu_3754

出来るかどうか分からないのに、そのメンバーに「最後の5キロ、めちゃくちゃ走りますから!!」なんて、大口を叩いてエイドを飛び出した。

 

瑪瑙山から飯綱林道へ|ふたつの勘違い

そして、信越五岳のラスボスと言われる瑪瑙山へ。過去にここを通過した時は割と余裕があったが、今回は少しキツかった。僕を軽快に抜かしていった他の選手たち。本当に抜かれたくないから食らいつきたかった。ただ、ここを頑張るよりも、飯綱林道からゴールまでを頑張ったほうがいいと判断して、とにかくローペースで進んだ。

飯綱林道入口(151km)

最後のエイド、飯綱林道入口に入ったのは、ちょうど夜中の1時(9/23 1:00)。残り13km。正しいゴール制限時間までは、あと2時間半あった。ただ、僕は「あと2時間」だと思い込んでいた。

今思えば、この頃から思考が正しく働いていなかった。

勘違い①:距離

コースの途中に、150kmの通過を示す看板があった。周りの人が「残り13キロだね」と話している。

そうか。

自分は100マイルのレースを走っているから、160キロ走ればいいと、途中から勘違いしていた。でも、このレースは163キロ走らなければいけない。この3キロが、さらに思考を狂わせる。

この状態でキロ8分で走れたとしても、勘違いしていた結果生まれた3キロを進むの

に、約24分もかかる。ヤバイなぁ……。

勘違い②:時間

スタートは9/21 18時30分。
ゴール制限時間は9/23 3時30分。
33時間の制限時間だ。

COROSのペース戦略には、目標ゴールを32時間30分で設定していた。時刻でいえば、9/23の3時00分がゴールの目標時刻。この目標時刻に対して、貯金があるのか、負け越しているのかを表示してくれる。

飯綱林道入口エイドの手前では、この目標ゴールに対して4分の貯金があった。

ところが、思考の低下した僕は、いつの間にか、大会の制限時刻が3時になっていた。

そこに、周りの選手が「ヤバイ! ギリギリだ」と言いながら急いで走り出した。これが、勘違いをさらに助長した。

いつの間にか、レースの制限時間を3時と思い込み、そして、それに対して4分の貯金しかないと思っていた。

「残り5キロを爆走します」と半分冗談で言っていたのに、残り13キロを爆走しないと間に合わない……。こんなことなら、瑪瑙山をもう少し攻めればよかったと、後悔が始まる。

夜中の1時に慌てるように入った飯綱林道入口エイドでは、知り合いの方に「飯田さん! よく来れました!!」「最後、絶対に行けるから!!」と、とても力強い声援をもらった。ただ、正直不安だった?!

僕は、いつもトレイルを走る時、ざっくり10キロ2時間くらいを仮置きして計算する。それをベースに、アップダウンや体力を加味してプラスαする。「残り13キロを2時間で行けるのか?」制限時間の3時(勘違いの制限時間)に対してギリギリすぎる・・・・。

ここからは何度か走ったことがあるコース。けど、今年は少し変更していると聞いている。高低表のイメージでは下り基調だけど、緩やかな上りもあるし……。あぁ、瑪瑙山で抑えて蓄えたことが、裏目に出たかもしれない。

「ここから、マジで走らないとまずい……」

脳をハックして、走りきる

声援を受けて、飯綱林道から本気で走った。

走りながら、100マイルをここまで走ってきて、今こんなに頑張っているけど、もっと他に頑張るところがあったよね? と、何度も思った。子供の頃、夏休みの宿題をギリギリまでやらなかった自分を思い出した。

レース中に何度も思い出したのは、2年前に言われた「レースは自分からはやめるな!」という言葉。そして、昨年、制限時間6分前にゴールしたチームメイトに、なぜ諦めずに走れたのかを尋ねた時に返ってきた、この言葉だった。

「ここまで頑張ったのに、諦められない。もう一度同じ苦しみにチャレンジしたくない」

まさにソレだ! だから、とにかく走った。

そして僕には、このレース中に見つけた、足の痛みを和らげる方法があった。それを、ここでも実践しまくった。その方法は、「脳をハックする」ことだ。

足が痛いと、そこに意識がいって、それをカバーするように走ってしまう。あるいは、「痛い痛い」と思いながら走ってしまう。まずは「痛いのは当たり前」と思う。(そりゃ、自分にとって初めての距離なんだし)

そのうえで、呼吸に意識を集中する。口から「フッ・フッ」と息を吐いて、鼻から「スッ・スッ」と吸い込む。そして、これに合わせて足を動かす。

そうすると、自然と足の痛みへの意識から、呼吸のリズムに意識が移り、足が動くようになった。伝わるか分からないが、イメージで言えば、インスタグラムのリール動画等で、右回りに見える映像を、意識を変えると左回転にみえるという、あのハックの仕方に近い。

 

もちろん、疲労度や状況によっては、人によっては合わない人もいるかもしれない。でも僕は、残りの13キロを、これで走りきった。

「もっと頑張るところあったよね?」と思いながらも、ここを走れる気持ちよさを再認識した。最高に楽しかった。

最後の下りで気づいた、勘違い

最後の1kmほどの下りにさしかかった時、前が少し詰まり始めたので、時計を見た。その瞬間、自分の勘違いに気がついた。

ゴールの制限時間を、勘違いしていたと。むしろ、このまま歩いても、目標タイムをクリアできる!

なんだろう、この狙っていないのに達成する感じ……。ある意味、自分らしいな。

ゴール、そして163kmの先にあったもの

ライトだけが照らすトレイルの先から、ゴール会場に響くマイクの声と、光が届くようになってきた。ようやく、一つの旅が終わる。そして、自身にとって初めての100マイル完走という称号を手にできる。

 

ゴール時刻 / タイム

9月23日 午前2時53分41秒 / 32:23:41

 

両手でゴールテープを高く掲げてくぐる。
知り合いから「おめでとう」と祝福の言葉をもらう。
あの時の達成感は、本当に最高だった。

そして、ゴール会場で知り合いを見つけては、互いに祝福の言葉をかけ合った。

 

翌朝、バックルを手に

ボロボロになった身体と、働かない思考で、宿に着いたのは朝の7時ごろだった。

お風呂に入り、約40時間ぶりぐらいに身体を横にした。数時間後に起きて、朝食をお腹いっぱい食べた。パンパンにむくんだ足を引きずり、アンパンマンみたいになった顔で、表彰会場へ。

そして、念願のバックルをもらった。バックルを手にしたことも、もちろん嬉しかった。でもそれ以上に、表彰式のステージへ上がる階段の足の痛みが心地よく、そこから眺めた景色が印象的だった。

 

ありがとうございました

あらためて、トレイルランニングは、1人ではなくチームで走るスポーツというかアクティビティというか、1つのカルチャーだと感じた。

仲間と練習をともにし、レース中に会えば励まし合い、会えなくても、見えない背中を追いかける。知り合いからの声援は大きな力になるし、コース誘導やエイドのボランティアスタッフがいなければ、こんなチャレンジはなかなかできない。そして、練習から大会当日まで、多くの時間を調整してカバーしてくれた、会社のスタッフや家族の支えも、本当に大きかった。

 

今回、ペーサーも、サポーターもつけなかった。でも振り返れば、関わってくれたすべての人が、僕にとってのペーサーであり、サポーターだった。

本当に多くの方に支えられて、その環境に恵まれて、たどり着けたゴールだと思う。あらためて、その方々に感謝を伝えたい。

ありがとうございました。

そして、僕は次のチャレンジに向けて、また、マイペースで動き出すのだと思う。

 

未確定の境界線

前編の冒頭にも書いたように、このゴールが自分を大きく変えてくれるものではないと感じている。勇者の剣や盾のように、自分を急に違う存在へ昇華させてくれるわけでも、きれいに着飾ってくれる装飾品でもなかった。

ただ、一つ言えるとするなら、これまでも、この先も、自分の人生観がグラデーションのように変化していく中で、この称号は、そのグラデーションの中にある「未確定の境界線」の1つなのだと思う。この1つをきっかけに大きく変わるのではなく、少しずつ変化していく中の1つ。そう感じた。

この境界線を積み重ねた先に、自分の人生があるのだと思う。

レース中にも思った。

今が辛くても、今が調子よくても、全てがその先にあるための、たった一瞬であるということ。