足から身体をアップデートする。#2「 最新シューズでも怪我は減らない?」

 

日本のベアフットの広まり方:3つのフェーズ

前提条件のお話として、最初に日本国内で、「ベアフット」という概念がどう広まってきたのか、その時系列を戦国時代の武将に例えてお話しさせていただきます。
※これは各ブランドの成り立ちの話ではなく、あくまで日本における「ベアフット浸透の歴史」の例えです。戦国時代のように勝った負けたのお話ではありません。

まず、日本に「裸足ランニング」の衝撃を持ち込んだのが、5本指シューズの「ビブラムファイブフィンガーズ」。
戦国時代を切り拓いた織田信長のように、既存のシューズ常識を焼き払い、「足本来の力を取り戻そう」という革命的な思想を国内に一気に広めました。

その後、その思想をより多くの人が日常やフィールドで使える「実用的な形」へと劇的に前進させたのが、2012年頃に上陸した「ALTRA(アルトラ)」です。
彼らは、信長が切り拓いたベアフットという荒野に、豊臣秀吉のような圧倒的な機動力で「クッション性×ゼロドロップ(踵とつま先の高低差ゼロ)」という新しい基準を持ち込み、ユーザーの意識をアップデートしました。ALTRAの登場こそが、日本でベアフットを単なるブームから、本格的なアクティビティへと進化させた最大の立役者だと言えます。

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そして現在。

色々なシーンで履けるベアフットシューズが増えてきた近年が、これまでの歴史を土台にした徳川家康的なフェーズ。
これら全てのブランドが今もなお現役で切磋琢磨する中で、ようやく「健康のために長く、日常的に付き合う」という文化、つまり「日常への定着」が訪れようとしています。

 


ALTRAが日本で広めたベアフット

因みに、僕がベアフットを本格的に意識して理解が深まったのは、ALTRAが日本に上陸しmoderateで販売開始された2012年頃で、かれこれ14年が経とうしている。

ALTRAが創設時から一貫している核心的な考え方として、“Inspiring natural movement(自然な動きを促す)”がある。

靴が足を矯正するのではなく、「足が本来持っている自然な機能(機能美)を、靴によって邪魔しない」こと。これが彼らの最大の考え。この核心的な考えを達成するために、大きく以下の3つのポイントでデザインが徹底されている。

 

1)自然な姿勢「Balanced Cushioning」(旧:ゼロドロップ)

靴を履いても、素足のように足裏に対してフラットな状態を作ることで、関節への負担が少ない「本来の正しい姿勢」を取り戻せる。

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2)自然な安定(FootShape)

足の指が自由に広がるスペースを確保し、足本来が持つ安定装置としての機能を復活させる。

 

3)生涯現役(Stay Active for Life)

無理のない自然な走り方等を身につけることで、怪我を防ぎ、年齢を重ねても自分の足で楽しく走り続けられる身体を維持する。

 

ALTRAが日本で展開が始まった当初、上記の事を踏まえて沢山の事を頭で覚える事は出来るものの、理解がちょっと追いつかなかった。

それも当然のことだ。

それまで、歩く・走る・立つという行為を約30年近く無意識に行ってきた僕にとって、そこに意識を向ける事の難しさ。そして、足の構造的側面から考えた場合、これまで履いてきた「靴」が足の健康には良くないと言われている点。ある意味、これまでの常識がひっくり返されたわけだから、理解が追いつかないのも当然だった。

ただ、この追いつかなかった理解も、ある話しを聞いた事によって、理解へのアプローチ方法が変わった。

 

その話しというのが、ALTRAの創設者たちが、もともとランニングショップで働いており、「最新のハイテクシューズを履いているのになぜランナーの怪我が減らないのか?」という疑問からこのブランドを立ち上げたという話しだった。

 

確かに!

 

この矛盾に対して 彼らは「靴の機能をアップデート」していくのではなく、「履くことで、自然と人間本来の正しい動き(意識のアップデートされた状態)へと導く」。いわゆる「履き手側の意識のアップデート」こそが大切だと考えたから。

そして、僕は彼らの考え方を自身にインストールした事で、ALTRAの靴づくりへの視点が変わり理解が追いついてきた。

 


違いから知る足に健康な靴とは?

 

ここからは、具体的に現代の靴のデザインとベアフットのデザインを比較し、そこから見える、更なる気付きについてお話します。

 

1)Balanced Cushioning VS 一般的なドロップシューズ(ヒールアップの靴)

「Balanced Cushioning」(旧:ゼロドロップ)は、端的に言うならば、靴の足裏にあたる部分のクッションが「かかと側」と「つま先側」共に、地面からの高さが同じ(前後の高低差が0mm)である構造のことです。これに対して、一般的な靴はつま先側に対してかかと側のクッションの方が高く「ヒールアップ」になっています。ドロップシューズ(ヒールアップの靴)の主な理由は2点。

  • 「歩く・走るといった動作を楽にする為」
  • 「アキレス腱への負担を瞬間的に減らす為」

 

本来、素足であれば足裏に高低差がある訳でもないのに、実は一般的な靴を履くことで急にヒールアップを強制されている。

 

2)FootShape VS 一般的なつま先が細い靴

ALTRAの靴は、一般的な靴に比べてつま先が広く「ぼってり」しており、初めて見た時は「カッコよくない」という印象を受ける人が多い。(僕も最初は変な見た目と思った。)対して一般的な靴は、つま先が細く見た目がスタイリッシュだ。

靴のデザインとして、つま先が細く作られる理由は、諸説あるが「歴史的なデザイン(見た目)」と「スピード競技への特化」(※余談アリ)が主な理由と言われている。ただ、この代償としてつま先は窮屈な空間に収納され、足にとって不健康な状態であることに気がついていない人が多い。

 

歴史的なデザイン(見た目の)とは・・?

 現代の靴のルーツは、ヨーロッパの革靴(ドレスシューズ)にあると言われている。

その昔、馬にまたがる際、足をかけるところは「鐙(あぶみ)」には、細く尖った革靴が相性が良く、「つま先が細い革靴=馬に乗る事が出来る上流階級」的な部分から、「つま先が細い靴=スマートで美しい」という美意識が長く続いた結果、スニーカーもその形状を無意識に踏襲してきたと言われている。

 

スピード競技への特化

「速く走る(短距離など)」という点においては、つま先が細いこと(特に親指が内側に寄っていること)で力の集約化から、蹴り出し(トゥーオフ)が効率的になるという側面がある。

この2つの事柄をあらためて比較した時に、一般的な靴には、「機能を持たせて身体の動きをサポート」するという役割が付与されている事に気がつくと思う。

 

ALTRAの創設者たちは、最新のハイテクシューズを履いているのに怪我人が減らない理由に、そのサポート機能が本来の足の機能を低下させてるのではという点から、これまで「デザインの当たり前」とされていたサポート機能をプラスする考え方ではなく、足本来の機能が使える「足にとっての当たり前」である事を前提にした靴づくりをしたのだった。

 

そのコンセプトで作らたALTRAの靴を初めて履いた人の多くが、良くも悪くも「わぁ?!」っていう不思議な反応をする方が多い。

 

それもそのはず。

 

一般的な靴はヒールアップの為、靴を履いた瞬間に無意識に、足首・膝・股関節・腰などを使って「ヒールアップに対応する姿勢で立つ補正」が染み付いている。

また、「靴を履く=つま先はフィットするもの」という、この2つの当たり前の感覚があるからだ。

 

いや、正確にいうと、ALTRAのような構造の靴を履くまで、この当たり前の感覚にすら気付かないだろう。

しかし、ALTRAの靴が「足の機能を活かす事を前提に作られた靴」と説明し、理解が深まると、不思議だったあの感覚が、驚きの「わぁ!!凄い!」に変わっていく。

 

そして、ALTRA(日本の代理店)が凄かったのは、その新しい感覚を持った靴をただ販売するだけではなく、ユーザーに対して「走り方」や「歩き方」等の意識と知識をアップデートさせた事だった。(まさに、創設者の意志を伝えている。)

 

それは、これまでの多くのシューズブランドが、技術を投資してアップデートされたサポート機能に偏った「ハイテク・シューズ」を売っていたのに対して、ALTRAは一般的に求められる機能を削ぎ落とした靴を使い、「ユーザーの意識改革へアプローチをした」のだった。

 

こうして、ALTRAを通じて足の本来の機能や走り方・歩き方に対して「意識のアップデート」が、日本のアウトド・コア・ショップを中心にまたたく間にユーザーに広まっていったのでした。

 

次回:vol.2 足裏には、身体を支えるセンサーがある

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